太良町 旅館経営レポート 2026年3月

カニが取れない。
今年の売り方をどう変えるか。

竹崎カニの急激な漁獲減少を受け、太良町の旅館が今年から取り組める具体策をデータに基づいてまとめました。

前提が変わった
有明海のガザミ(ワタリガニ)がピーク時の5%以下に
有明海4県合計の漁獲量は、1985年頃の約1,800tから2024年時点で推定約90tまで減少(水産庁資源評価等に基づく推計)。 佐賀県単独では33t程度。この2年で急激に悪化し、仕入れ価格は高騰、量も確保が困難に。 タイラギ(貝柱)も13季連続の休漁。有明海の天然資源全体が危機にある。 諫早湾干拓の潮流変化・海底の泥化・貧酸素水塊が複合的に作用しており、短期間での回復は見込めない

一方、太良町では3倍体の地牡蠣の養殖が始まっている。3倍体牡蠣は抱卵しないため夏場でも身が痩せず、通年で美味しく、生食も可能。これが「カニの次」の鍵になる。

出典: 水産庁資源評価、環境省有明海・八代海等総合調査評価委員会、佐賀新聞(タイラギ13季連続休漁・2024年11月報道)

01 結論

3つの方針転換

看板商品の入替え
カニ → 地牡蠣×肉
3倍体の有明海地牡蠣+佐賀牛・金星佐賀豚を新しい柱に。カニは「入荷時だけの希少品」へ
売り方の転換
冬一本 → 通年
3倍体牡蠣は夏でも身が痩せない。生食OK。佐賀牛・金星佐賀豚と合わせて通年で勝負
仕入れリスクの解消
天然 → 養殖+畜産
天然カニの価格変動から解放。地元養殖の3倍体牡蠣+佐賀牛・豚で原価が安定
02 損益で考える

「何もしない」ほうがリスクが大きい

10室の旅館を想定。3つのシナリオで比べます。

3シナリオ比較(10室・1室2名・年間想定)
前提: 現在の稼働率55%、客単価2.5万円/人。人件費等の固定費は年間2,400万円と仮定
A. 現状維持
カニを出し続ける
B. 堅実転換
メニュー変更のみ
C. 積極転換
メニュー+販促+体験
年間稼働率55% → 45%55% → 58%55% → 68%
客単価(1名)2.5万円2.5万円2.8万円
年間宿泊のべ人数3,285人4,234人4,964人
売上8,213万円10,585万円13,899万円
食材原価率38%(カニ高騰)30%30%
食材費3,121万円3,176万円4,170万円
固定費(人件費等)2,400万円2,400万円2,600万円
営業利益2,692万円5,009万円7,129万円
対A差額+2,317万円+4,437万円

注: 簡易試算。実際の損益は施設規模・借入・設備費等により異なります。固定費には人件費・光熱費・OTA手数料・修繕費等を含む想定

メニューを変えるだけの堅実転換(B)でも年間+2,300万円の改善余地。カニ高騰のまま現状維持するシナリオAが最もリスクが高い。
03 実行計画

今月から4週間でやること

大きな投資は不要。メニューと売り方の変更から始める。

04 月別の売り方

「いつ、何を、誰に」売るか

食材の旬と客層を月別に整理。最もスクリーンショットしてほしい部分です。

食材カレンダーと推奨プラン
▲=ピーク ●=通年供給可 ▼=漁獲減で不安定 -=時期外 ★=生食可
1月
2月
3月
4月
5月
6月
7月
8月
9月
10月
11月
12月
3倍体 地牡蠣
佐賀牛
金星佐賀豚
みかん
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竹崎カニ
3倍体牡蠣が最大の武器。抱卵しないため夏でも身が痩せず、生食が可能。「夏でも生で牡蠣が食べられる町」は全国的にほぼ例がなく、圧倒的な差別化になる。
時期おすすめコース狙う客層目標客単価
11〜2月地牡蠣フルコース(生・焼・蒸・土鍋)/ 牡蠣×佐賀牛カップル・家族(従来のカニ客層)2.5〜3.0万円
3〜5月春の生牡蠣×佐賀牛ステーキコースドライブ客、おひとりさま2.2〜2.8万円
6〜8月「真夏の生牡蠣」× 佐賀牛 海陸コース夏休み家族、カップル、食通2.5〜3.0万円
9〜10月金星佐賀豚×地牡蠣 / みかん狩りセットプラン紅葉・多良岳登山客2.2〜2.8万円
05 背景データ

有明海で何が起きているか

旅館経営の判断に必要な、マクロの状況を整理します。

ガザミ漁獲量の推移
有明海4県合計(推計)— 約40年で95%減少

出典: 水産庁資源評価・有明海漁業関連統計に基づく推計。一部年の数値は補間

有明海の漁業 全体像
カニだけの問題ではない
魚種現状供給見通し
ガザミ通年で激減。仕入れ困難回復見込み薄い
タイラギ13季連続休漁壊滅的
ノリ記録的不作が続く不安定
牡蠣(養殖・3倍体)養殖で安定。3倍体は抱卵せず通年出荷可。生食OK安定・通年
天然資源が壊滅的な中、養殖の3倍体牡蠣は通年で安定供給が可能。有明海の栄養豊富な環境では通常2-3年かかるサイズに1年で成長。抱卵しないため夏でも身が痩せず、生食も可能。
太良町の観光客データ(2017年時点)
カニが元気だった時代の数字。今後は変動する可能性が高い

出典: 佐賀県観光客動態調査(BODIK CC BY 4.0)

太良町の基礎データ
外からの集客ポテンシャルは高い
項目データ
人口8,121人(2020年国勢調査)
年間観光客65.7万人(うち宿泊4.9万人)
宿泊率7.5%(南部地区で嬉野に次ぐ2位)
県外客比率52%(九州圏45%+その他7%)
主な交通手段自家用車 98.5%
福岡から車で約2時間
長崎から車で約1.5時間
温泉5源泉・12施設(ナトリウム系)
注目観光列車「ふたつ星4047」多良駅停車
佐賀空港⇔台北 週3便運航中

出典: 太良町公式、佐賀県統計年鑑(BODIK)、JR九州、佐賀経済新聞

06 半年〜1年の取り組み

余裕ができたら考えること

まずは03の4週間を動かしてから。その先の打ち手。

半年以内
「通年で生牡蠣が食べられる町」を打ち出す
3倍体牡蠣の最大の強みは「夏でも生食OK」という希少性。「真夏の生牡蠣」はSNS映えする。公式サイト・OTAで「全国でもここだけ」のポジションを前面に出す。LINE公式アカウントでリピーター育成。
目安: 夏の稼働率+15pt。「生牡蠣×佐賀牛」で客単価も夏に落ちない
半年以内
韓国語・英語の予約対応
2025年の訪日外国人は4,268万人で過去最高(JNTO)。韓国からの訪日は年間945万人で食への関心が強い。佐賀空港の台北便も好調(搭乗率90%超)。海中鳥居がSNSで拡散中。
目安: 外国人宿泊が月5組増えれば年間+300万円
1年以内
体験プログラムで「もう1泊」
牡蠣焼き体験、朝の漁港見学、干潟散歩、多良岳トレッキング。「食べるだけ」から「体験する」へ。観光庁のガストロノミーツーリズム推進事業(2023年度〜継続中)への応募も検討。
目安: 体験付きプランは客単価+3,000-5,000円
07 参考になる事例

同じような状況から立て直した町がある

城崎温泉(兵庫県豊岡市)
人口3,500人の温泉地がV字回復した

低迷していた宿泊者数を、7つの外湯めぐり体験で「まち全体が一つの旅館」として再定義し回復。個々の宿の努力だけでなく、街全体で滞在体験を設計したことが成功の鍵。

太良町に活かすなら: 海中鳥居→牡蠣焼き→温泉→漁港の朝を、町全体の「滞在ストーリー」にする

参考: 日本経済新聞「城崎温泉『街ごと旅館』」2024年

若狭ガストロノミー(福井県若狭町)
カニ・ふぐ依存の民宿街が「食文化全体」で勝負し始めた

世久見・食見地区の漁師宿が、観光庁「地域一体型ガストロノミーツーリズム推進事業」に採択。カニの団体向け低単価モデルから、フランス大使館総料理長を招聘し地域の食文化全体を売りにする高付加価値型へ転換中。養殖「若狭サーモン」を新たな柱に。

太良町に活かすなら: 同じ観光庁事業に応募可能。3倍体牡蠣+佐賀牛+有明海の食文化は十分に採択条件を満たす

参考: 若狭ガストロノミー公式、観光庁 2025年度採択事業

虫明の3倍体牡蠣(岡山県瀬戸内市)
3倍体牡蠣で「通年出荷」を実現した産地

伝統ブランド「曙牡蠣」の産地・虫明湾で、3倍体牡蠣「ヴィーナスオイスター」を導入。抱卵しない特性を活かし、夏場でも身が痩せない高品質牡蠣を通年出荷。養殖業者「のぞみ水産」等が高付加価値商品として展開中。

太良町に活かすなら: まさに同じ「3倍体で通年化」の先行例。太良の有明海地牡蠣でも同様のブランド化が可能

参考: 水産庁 令和元年度水産白書、のぞみ水産